バベルタワーのてっぺんで
メリル(Eno.52)が冒険している様を観客席から眺めているるクマヘッドとゼウ子があーだこーだ文句言ったり記録したり落書きしたりおっぱいおっぱい騒ぐ場所。
18日目日記退避
(そのままコピペしただけザマス)
(後日過去ログと共に整形したのアップする予定だけど何時になるやら)
【パンダ】
「大変だよ熊頭先生!」
【クマヘッド】
「なんだねパンダ君、おじさんシリアスモードの時は日記でないようにしてるんだけど!」
【パンダ】
「調律+大+師-大-、じゃなくて調律+大+者-大-です!」
【クマヘッド】
「…………」
【パンダ】
「ピアノでも弄る気ですか! てーか+大+手前の造語誤字るのはいい加減やめてください!-大-」
+大+第十五話
調律+大+者-大-
そして、新たなる来訪者
-大-
【アリシア】
「…………」
【メリル】
「……っ」
メリルは頬をさすりながら、投げつけた主を睨み付ける。
何時の間に取り出したのだろう、指の隙間に計三本、メスを構えながら……無表情を返すアリシア。
冷静に思い直せば、避けるまでもなく自分には当たらなかっただろうソレ。
当たらない位置へ投げられたメスから感じた恐怖に、今更ながら腹が立つのを抑えながら一呼吸。
殺気?
違う、そんな物は最初から――今も尚、一切感じない。
速度と……あと、正確性。
自分に向かって飛んでくる、無機質な刃物を純粋に怖れて……慌てて回避した自分が居る。
【アリシア】
「……どうしました?」
【メリル】
「な……なんでもないよっ……」
そう答えるのが、精一杯。
特に何をしたわけでもない。
怒気も殺気も無く、口調も普段通り、表情さえも変えてはいない。
そんなアリシアを……どうしようもない程怖れている自分が、確かに居る。
本能?
アリシアという存在を怖れているのか、それとも……。
【アリシア】
「……無理に戦うことはありませんよ」
【メリル】
「え?」
【アリシア】
「思い直していただければ私は何も言いません、まあ……少し、小言は申しますが」
【アリシア】
「人を傷つけると、不用意に発言したのは……宜しい事ではありませんし」
【メリル】
「…………っ、覚悟は、できてるって言ったよね」
――戦いたく、無い。
沸き上がりかけてた感情を押し殺すように、もう一息。
そうだ……怖がるな。
覚悟は決めたはずだ、強くなろうと誓ったはずだ。
その為に他人を……知り合いだろうと、友人だろうと打ち倒すと、そう決めて……。
――それは嫌だ、と。
言ったのは……私、だったっけ……。
【アリシア】
「……仕方ありません」
【メリル】
「っ!?」
襲い来るメスをギリギリで躱し、重心を下げたまま走り出す。
そのまま、無防備に佇むアリシアへ、向けた刃を振りかぶり……。
【メリル】
「幾ら先生が強くたって……っ!」
【アリシア】
「…………」
思い切り、振り下ろす。
下ろされる刃はメスに止められ、甲高い音を響かせた。
受け流すことも、押し返すこともせず、ただ受け止めるアリシアに、口の端だけで笑んでみせる。
【メリル】
「戦い方次第よね……分かったよ、先生」
【アリシア】
「…………」
【メリル】
「先生には弱点があるよね……先生は普通に戦うしかできないんだ、そうだよねっ」
【アリシア】
「……と、言いますと?」
言葉は無しに、一呼吸。
沸き上がる力を剣に込めて……弾けるイメージそのままに、剣を押す。
【メリル】
「グリッターエッジっ!!」
刃が光輝く瞬間、支えが消え、剣が大地へ突き刺さる。
光の帯が追撃するように舞い踊るの空間から、逃げるようにステップを踏むアリシア。
その姿に、何かを確信したように……メリルは、満面の笑みを浮かべ安堵の溜息。
【メリル】
「先生は魔法とか使えないって確認したの――感じないもん、魔力とか」
【アリシア】
「ふむ……」
【メリル】
「今も防ごうとしなかったよね……やっぱり、ただのメスじゃ無理ってコトだよね!」
もう一発、同じように光の刃を振りかざす。
襲いかかる光刃を無表情に見つめながら、アリシアは小さな溜息を吐き出した。
迫る刃を見据えながら、右手を振るい、もう一呼吸。
左手に持ち直したメスを構え……右手は、光の刃へと――。
【メリル】
「んなっ!?」
バシィッ、と弾けるような音を立て、光の刃は霞みと消えた。
――属性抵抗。
最早無効化と言っても過言ではない領域のそれは、瞬時に、残りの刃も無効化する。
【アリシア】
「魔力、そして属性……共に私は希薄です、しかし」
【アリシア】
「工夫を怠らなければ、存外、立ち回れるものですよ」
淡い光を放つ右手を振るい、もう一度、溜息。
淡々と言葉を放ちながら、真っ直ぐにメリルを見据えるアリシア。
魔封じの道具でも持っているのか、魔力を隠しているだけなのか……。
姿からは判別できないが……それなりの防御力を秘めているのは確かな事実。
【メリル】
「……っ」
その動きに、言葉も出ないメリルを、アリシアはただ無表情に眺めたまま……。
【アリシア】
「……私から、征きましょうか?」
言葉と共に、身を躍らせる。
予想外の速度での突進を、横への跳躍でなんとか逃れ……。
【メリル】
「っ……この距離なら、外さないよっ!」
反撃の一振りを、斬り下ろす。
【アリシア】
「…………」
【メリル】
「えっ!? ……いつのまに!?」
がくん、と……抵抗感を覚えて見上げれば、白い布に巻き取られた自身の剣。
戸惑うメリルを見据えながら、アリシアは手元の白布――包帯を軽く振り払う。
木の枝と剣とを絡めたそれは、頭上へと剣を引き上げる。
吊られ、両手を上へと上げながら……目前まで迫ったアリシアへ反射的に蹴りを返す。
足に反応し、下がるアリシア――同時に投げられたメスが布を裁ち、支えを失いたたらを踏むメリル。
【メリル】
「間合いがメチャクチャ……こんな戦い方っ、何処まで!?」
気を取り直し、前を睨み――居るはずの場所に居ないアリシアを、目線だけで追いかける。
予想以上の素早さ、巧みさに、完全に翻弄されている自身を叱咤するように一呼吸。
前、右、左、上――。
【アリシア】
「……隙が大きすぎます――甘いっ」
【メリル】
「はぐっ……!」
視線を泳がせている隙に、背後からの一蹴り。
背を押さえながら振り向けば、静かに、自身を見据えるアリシアが……。
【アリシア】
「貴女には、言ってませんでしたね」
【アリシア】
「私は、医師を生業としていますが、もう一つ……片手間にこなしている仕事があるのです」
【アリシア】
「調律者――万能なる薬師、二つ名は伊達ではありませんよ」
【メリル】
「調律……っ!?」
メリルは目を見開きながら、今聞いた言葉を反芻する。
調律者。
その字が示す通り調律する者、世界という糸を紡ぐ者。
人同士の諍いにも、魔物絡みの事件にさえも手を染めず、ただ……世界の危機にだけ暗躍すると、話だけは聞いた超越存在。
御伽話の王子様とか、昔話の英雄とか、そういう次元の役職名。
【メリル】
「そんな……先生が調律……ううんっ、ならなんで! なんで私なんかを相手に……」
【アリシア】
「……簡単です、私は調律者である前に医者であり、それ以前に、アリーシア=フェイ=レムリスという人間です」
【アリシア】
「貴女の仲間として……先生と呼ばれる物として、貴女の行いは見過ごせません」
【メリル】
「っ……」
【アリシア】
「ですが、これは私と貴女の個人的な戦いです……調律者としてではなく、私自身としてお相手します」
つまり――本気を出す気は無い、と。
そんな状態の彼女に、自分は指一本触れていないと。
それを意識した瞬間、メリルの中に怒りにも似た悔しさが沸き起こる。
【メリル】
「くっ……いいわっ、そっちがその気なら私だって……っ!!」
ぐらり、と。
吠えた瞬間、世界が廻る。
【アリシア】
「……っ!」
一息、深く深く深呼吸。
揺れる視界を抑えるよう、頭を支えながら……きっと、アリシアを睨み付ける。
【メリル】
「ぐっ……」
【アリシア】
「……落ち着きなさい、メリル」
【メリル】
「――へぇ、先生はメリルって呼んでくれるんだ」
【アリシア】
「貴女もメリルであることは否定しません、最初からそのつもりでしたが」
【メリル】
「そうだったかな……先生も、あの子の事ばかり気にしていたと思うけど」
【アリシア】
「当然です、見た限り貴女は健康そのものに見えますので」
【メリル】
「私が出てくる前は、気にもかけてくれなかったくせに」
【アリシア】
「……気づかなかったことは私の不手際です、謝罪する必要がありますね」
アリシアは一瞬表情を曇らせ……小さく、頭を下げた。
その様子にきょとんとするメリルを、元の無表情で見据えながら……。
【アリシア】
「さて……医者として忠告します、あまり動かないほうがよろしいかと」
【アリシア】
「慣らし運転には激しすぎます、身体に慣れる事から始めては如何ですか?」
【メリル】
「っ……う、うるさいっ、うるさい!」
――見透かされたっ。
その事に不安と、焦りと、色々な感情を覚えながら、叫びと共に構えを正す。
切っ先を向けることで全てを誤魔化し、メリルは、アリシアを睨み付けた。
【アリシア】
「……仕方ありません」
一息。
アリシアはメスを持ち直し、間合いを計るよう背後へ跳ぶ。
踊るようなステップを繰り返し、牽制の意を込め……当たらないよう、投げつけた。
避けた隙を縫うように攻め込み、打ち合わせる瞬時に身を引いて。
手玉に取るような動きを続け――無表情のまま、静かに焦る。
【アリシア】
「……急いでください、瑞奈……」
【メリル】
「ぐっ……そこだぁーっ!」
呟いた声は森に溶け、メリルの耳には届かずに。
アリシアは……幾度目かの斬撃を流しながら、小さく、溜息を吐き出した。
+
+斜++小+――幻世
商業都市『ラ・ヴァローテ』-小--斜-
【瑞奈】
「って、メリルん家の場所知らないじゃない、私のアホー!」
商店街のど真ん中で一叫び。
怪訝な目線が集まるのを全て無視すると、瑞奈は頭を抱えて眉をしかめた。
【瑞奈】
「……この広い街から人間一人探せって……住所くらい聞けば良かったかも」
肩を落とし、呟く。
声に出す事で反省の念を強めながら、辺りの人影に目線を移す。
奇異な目で眺める者、敢えて無視して歩む者、自分を気にしていない者。
それぞれを眺めながら、『使えそう』な人物を吟味する。
一から事情を説明する余裕は無い。
ただ店の場所を聞くために事情なんて話してられないし、こんな所で手間取るつもりは毛頭無い。
勢いだけで押し切れそうな、気の弱そうな女性。
この街の人間。
ある程度、頭の良さそうな……。
――居たっ。
【瑞奈】
「ちょっと、そこの人!」
【女性】
「……え?」
呼びかけに反応した女性に笑みを向け、一つ、咳払い。
落ち着いた素振り、理知的な瞳、何処か大人しそうな雰囲気。
探していた条件にぴったり当て嵌まる姿に、これなら行けると確信一つ。
【瑞奈】
「そ、貴女……冒険者って格好じゃないし、この街の人よね」
【女性】
「私ですか? ……はい、もう十年になりますね」
【瑞奈】
「ん、ちょっと聞いていいかしらー……武器屋だったかな、銀十字の店ってどの辺り?」
【女性】
「銀十字? ……異神大戦の、ですか」
【瑞奈】
「それ、別に武器探してるとかじゃなくてさ、奴に急ぎの用があんの、家の場所だけ教えてくれればいいからさ」
畳みかけるように言葉を投げ、微笑を向ける。
優しそうな女性だ。
十二分に怪しい自分が相手でも、きっと戸惑いながら答えてくれる。
そんな算段を頭の中で重ねながら、瑞奈は安堵の溜息を吐き出した。
【女性】
「はぁ……そう言われましても、この街にそのような人が居るとは初耳ですよ」
【女性】
「そもそも、異神大戦で戦死した、と聞いてますが」
【瑞奈】
「あ゛」
当たり前の返答に、溜息さえも凍り付く。
そういえば、銀十字は既に死んだって事になっていて……彼の武器屋なんて訪ねたって、見つかるはずが……。
【瑞奈】
「……あ、えーっと、あの、そうじゃなくてーっ……」
【瑞奈】
「って偽名聞いてないじゃん! 私のバカーっ!?」
頭を抱えて一吠え。
物凄い嫌な視線が集まっているのを感じるが、どうせ自分とは関係無い世界のシラナイ街、割とどうでもいい。
そんな風に思いながら叫ぶ事で誤魔化すと、焦りを抱いたまま街の景観を眺め見る。
【女性】
「……え、えっと……」
【瑞奈】
「ああもう、いいわアリガト、自分で探す!」
それなりの規模の街だが……仕方ない。
武器防具を扱う店は平和なら平和な程減る物だ、大戦も終わり辺境のこの地なら……商業都市とはいえ、十件あるか無いかだろう。
探しきれない量じゃない。
【瑞奈】
「ったく、私ってホントー……メリルのコト何も知らないじゃん……っ」
探すなら裏路地。
メインストリートにある可能性は……ゼロではないが低いだろう。
銀十字の、サングラスをつけただけの変装を思い出しながら、頭の中で断定する。
こんな所に店を出したら、五秒でバレる。
【女性】
「……――冗談です」
【瑞奈】
「は?」
振り向けば、微笑を浮かべた女性の姿。
はにかむように舌を出して笑顔を一つ。
【女性】
「貴女の正体が分かりかねて……ちょっとからかってみちゃいました、ごめんなさい」
【女性】
「と言っても、誰に聞いても教えてくれなかったと思いますけど……一応、秘密というコトになってるので」
【瑞奈】
「えーっと……アンタ、場所知ってんの?」
【女性】
「はい、それなりに有名らしいですよ? 実は皆知ってるんです」
【女性】
「この街の人は……あの人がどんな人間か、それを知った上で、普通に接してくれてます」
【女性】
「それどころか黙っておいてあげないと可哀想って、そこまで気をつかってくださる程に」
【瑞奈】
「……まあ、あんな変装じゃバレるよね、フツー」
誤魔化すように空を見上げながら一息。
……ていうか、黙っておかないと可哀想って、どんだけ舐められてるんだ銀十字。
ともあれ、コレでなんとかなりそうだ。
【女性】
「でも……入れ違いですね、今は居ないんですよ」
【瑞奈】
「んなっ!?」
そんな期待は、一瞬で見事に粉砕された。
【瑞奈】
「え、い、居ないって!? 何それ!」
【女性】
「えーっと……なにやら古い遺跡が見つかった、とのコトで、その発掘パーティに同行してますから」
【瑞奈】
「遺跡ぃ!?」
【女性】
「いつもの事ですけどね……遺跡の類が好きなのは昔っから変わりません」
【女性】
「皆さん様子見のつもりで用意してましたが、あの人は入念に準備してました……しばらく帰らない、らしいですよ」
【瑞奈】
「はあ!? しばらく帰らないって……何してるのアイツ! もういい、教えなさいっ! 呼んでくるわ!」
【女性】
「あ……遺跡の場所ですか? この街から北西へ片道で丸一日とちょっと……遠いですよ」
【女性】
「出発から三日は過ぎてますし、追いつくのは難しいと思います」
【瑞奈】
「なっ!? ……は、はあ!? 三日ぁ!? タイムロスってレベルじゃないわよっ!」
頭をかきむしりながら、北西の空を眺め見る。
遺跡までの移動はさておき、内部の追走を踏まえれば……どう見積もっても、二日じゃ足りない。
それどころか、状況的に今すぐにでも帰りたい所なのに。
そう、困惑する瑞奈を眺めながら……。
【女性】
「どうですか、私を連れて行く……というのは」
女が、笑みを纏って呟いた。
【瑞奈】
「……え、なんだって?」
【女性】
「多分、ですけど……あの人では、貴女の望む結果に辿り着けないと思うんです」
【女性】
「でも私なら……」
【瑞奈】
「は、えっ? ……えっと、誰よアンタ」
女は、瑞奈に対し柔和な笑みを向けると、身の丈ほどの杖を大地に突いた。
【女性】
「大丈夫です、メリルの事でしたら……私の方が、力になれますよ?」
それが答え、とでも言いたげな笑顔。
瑞奈は首を傾げたまま……琥珀に輝く指輪へ力を向ける。
えり好みをする余裕は無い。
それにしたって会ったばかりの女を信用するのはどうかと思う。
ただ……ウソを言ってるようには見えないし、時間は無いし、何より……。
【瑞奈】
「……まあいいわ、とりあえず信じとく」
とりあえずなんて大嘘だ。
一瞬、確かに溢れた魔力が……何よりも信用できると、自身の本能が告げている。
時空転移の法陣が辺りを包む。
島を心に浮かべ、頭の中で座標を反芻。
【女性】
「時空転移……そうですか、貴女は……」
何故か見覚えのある優しい笑み。
その微笑に、何処か既視感のような物を覚えながら……。
【瑞奈】
「……そゆこと、しっかり捕まってなさいっ」
17日目日記退避
(そのままコピペしただけザマス)
(後日過去ログと共に整形したのアップする予定だけど何時になるやら)
【メリル】
「…………」
【瑞奈】
「私なら、負けない?」
【メリル】
「……」
【瑞奈】
「神を穿つ刃だって、ぷぷー!」
【メリル】
「うっ……」
【瑞奈】
「ハハハ、バーカ」
【メリル】
「うるさいっ! うるさいうるさいっ、うるさいーっ!!」
第十四話
与えられし者、与えし者-そして、全てを奪われた少女-
【メリル】
「うう、まさか負けるなんて……」
【アリシア】
「まあ……その、かける言葉が見つからないとはこのことです、なんと言えばいいのやら……」
【瑞奈】
「何言ってんのよアリシアー、あんな調子乗って油断しきってたら負けて当然、ハッハー負け犬だわー」
【メリル】
「ぐっ……」
【瑞奈】
「大体負けたら変わるとか言ってたけど、元の身体同じなら劇的に強くなるわけでも無いでしょうに、甘く見すぎだわー」
【メリル】
「えぅ……」
【瑞奈】
「そういえば見たアリシア? クリスクリス、いやー思い切った脱ぎっぷりだったわー」
【アリシア】
「……あれは脱ぎっぷりというか、脱がされたというのが正しいと思われますが」
【瑞奈】
「そうともいう、ねー……もうちょっと気合い入れて挑めば勝てた試合なのに、性根曲がってるからそんなんなるのよー?」
【メリル】
「うっ……うわーんっ!?」
+
【メリル】
「…………」
【アリシア】
「……瑞奈、からかい過ぎだと思いますが」
【瑞奈】
「私は事実しか指摘してないわよー、それで凹むってコトは多少思い当たる節があるってコト、油断を正すのはオトナの仕事よ」
【アリシア】
「大人?」
【瑞奈】
「……あによ、その目は」
【メリル】
「ぐ……い、いつまでも負けたことには拘らないっ!」
【瑞奈】
「ほう」
【メリル】
「大体っ、私が出てきたから惜しい所まで行けたのよ! もうちょっとで勝ててたじゃない!」
【アリシア】
「……元々、メリルもあそこまで追い詰めておりましたが」
【瑞奈】
「てかサバスってアノ後復活するのよ、惜しくも何ともないわー」
【メリル】
「ウルサイーっ! ……もう負けないわよっ、サバスだって、何だって倒せるくらい……」
【メリル】
「……――そうよ、強くならないと……私が私で、在るために」
メリルは歯を食いしばりながら天井を見上げ、吐き捨てるように呟いた。
その様を複雑な眼差しで眺めながら、瑞奈はすっと目を細める。
【瑞奈】
「…………」
【アリシア】
「……まあ、向上心を持つのは良い事です……」
【瑞奈】
「そうねえ、否定はしないけどー……アンタよりメリルの方が良いんじゃない、やっぱり」
【メリル】
「……私がメリルだって、昨日言ったと思うけど」
不機嫌そうに見返すメリルを睨むような目線で見据える。
瑞奈は表情で否定の意思を返しながら、微笑を纏って言葉を放つ。
【瑞奈】
「言ってたわねえ、でも私からすればアンタじゃないの、あの子のほうがメリルだわ」
【アリシア】
「瑞奈」
【メリル】
「……瑞奈がどう思っても、あの子はもう出てこないんだから――私が強くなるしか、無いんだよ」
【瑞奈】
「っ……そんなの認めないっ、信じないわ」
あくまで不満そうな瑞奈を、一瞬……寂しそうに見返しながら。
すぐに口の端だけを笑みに変え、メリルは淡々と瑞奈へ返す。
【メリル】
「分かってないな、瑞奈は……あの子は出来損ないだよ、私の方がメリルなんだって」
【瑞奈】
「私から見ればアンタのがよっぽどよ、感情むき出しでガキみたい」
その言葉に、一瞬むっとした表情を向け……それさえも、笑みで誤魔化しながら。
【メリル】
「……そうかもね、私は……まだ子供かもしれない、そう言われても仕方ない年頃だって、自覚してるもん」
【メリル】
「じゃあ、あの子は?」
【瑞奈】
「ん?」
【メリル】
「感情むき出し、か……そりゃそうよ、感情を押し殺す事に意味があるなんて思えない、私には、あの子みたいな事できないもん」
【メリル】
「ねえ瑞奈、あの子が泣いてるのを見たことある? 怒ってるのを見たことある? ……無いよね」
【瑞奈】
「……そりゃあその、無い……けど」
【メリル】
「でしょう……でも、確かにあの子は……色んな事、思ってたよ」
【メリル】
「泣きたいくらい悲しいことも、どうしようもない苛立ちも、人に言えない寂しさも、いっぱい……持ってたよ」
【メリル】
「けど、嫌なことがあっても、悲しいって思っても、ずっと……ずっと笑ってた」
【メリル】
「中に居て不愉快だったもの、あの子はすぐに誤魔化すから……文句なんて、絶対言わないから」
【メリル】
「笑顔しか見せない人間なんて、子供……ううん、人間らしいと言えるのかな?」
勝ち誇ったような笑みに問い掛けを乗せ、呟いた。
【瑞奈】
「メリルが、そんな……いや、確かにずっと笑って、え……」
【メリル】
「……あ、そうそうー……瑞奈、教えて欲しい事があるんだよ」
【瑞奈】
「……何よ」
【メリル】
「人狩り、だっけ……アレって、どうやるのかな?」
【アリシア】
「……――っ」
【瑞奈】
「なっ!?」
アリシア、そして瑞奈の目線を浴びながら、メリルは笑みを崩さない。
【メリル】
「ほら、私さ……あんまり実戦の経験少ないし、お金も物も足りないしー……考えてみたんだけどさ」
【メリル】
「誰かから奪っちゃえば、全部が一変に片付くなって」
瑞奈は、その笑みに、苦虫を噛み殺したような表情を浮かべ……怒気を含めた言葉を返す。
【瑞奈】
「……アンタ一人がそんな事言っても無理よ、クリスとかもう一人も居るでしょう」
【メリル】
「クリスには指一本触れさせないよ、クレナは……どうだろうね、頼んだら乗ってくれるかも?」
【瑞奈】
「そういう問題じゃないっ……あの子は無理よ、他人に危害を加えるタイプじゃないもの」
【メリル】
「じゃあ後ろで見てればそれでいいし、無理強いはしないもん」
【瑞奈】
「二人で三人を相手にすると、バカじゃない?」
【メリル】
「でも、勝てないとは限らない」
【瑞奈】
「分かるわよ、数の差ってのは大きいの……身に染みて知ってるわ」
【メリル】
「強くなりたい……その為になら、誰とだって戦うよ」
【瑞奈】
「……この島には練習試合って丁度いい物があるじゃない、今更そんな事しなくたって……」
【メリル】
「随分否定的だね、瑞奈……この方法を教えてくれたのは貴女なのに」
【瑞奈】
「っ……」
目を逸らす。
確かに、人狩りと言う術を身を以て教えたのは自分だった。
だが……それを生業としていたからこそ、知っている事が幾つもある。
その全て、メリルに教えていない事柄を反芻しながら小さく溜息。
数の差は何よりも大きいこと。
褒められる行為では決してないこと。
何より……罪という烙印は、決して消えないこと。
過去を振り返り、思案するように押し黙る瑞奈を眺めながら……メリルは、見せつけるように溜息を吐き出した。
【メリル】
「いいよもう、柏木ちゃんに聞いてくるー、瑞奈よりも詳しそうだし」
【瑞奈】
「……アンタ、本気で言ってるの?」
【メリル】
「本気だよ、私はあの子と違って誰かと争う事に抵抗とか、無いし?」
【瑞奈】
「…………」
【瑞奈】
「……――確かに、認めるわよ、アンタはメリルとは違う……違いすぎる」
【瑞奈】
「様子見しようって、アリシアと話してたけど……そんな事言う奴なら見過ごせない」
深く、一息。
最初は……メリルを其方の道へ誘う事も考えた。
この力があれば、自分より上手く立ち回るかもしれないと、そう思ったことは否定しない。
そんな自分がこんな事を思うのは奇妙かもしれない、けど……今は違う。
その結果生み出す物が、メリルを危うくする事を危惧している。
今のメリルが、彼女とは別の存在だから?
いや、違う……。
純粋に、彼女が危うくなる事を、良くないと思っている自分が居る。
【瑞奈】
「アンタの存在はメリルの立場を危うくする――少し、痛めつける必要がありそうね」
【メリル】
「……本気? 瑞奈がそう来るのは予想外だな……立場も何も、まだ私がメリルだって認めないんだ」
【瑞奈】
「冗談じゃないっ! メリルはアンタとは違うの、私の知ってるメリルを還してもらうわっ」
【メリル】
「残念だな……瑞奈とは、仲良くなれると思ったのに」
【アリシア】
「待ちなさい、瑞奈!」
【瑞奈】
「五月蠅いっ! ……どのみち、アンタに人狩りなんて無理よ、できっこ無いわ」
【メリル】
「あはは、やってみないと分からないよ、別に抵抗は無いし」
【メリル】
「身体を奪ったのと同じように、皆から力を奪うの……私になら、できそうじゃない?」
その言葉を聞くと同時……思わず、笑みを浮かべる瑞奈が居た。
抑えきれぬ笑いをそのままに、顔一杯の微笑みをメリルへ向ける。
【瑞奈】
「……はは、あはははっ、面白い冗談だわ」
【メリル】
「んぇ?」
【瑞奈】
「奪う? アンタが? ……出来るわけが無いでしょう、貰い物の身体で喚いてるんじゃないわ」
【瑞奈】
「奪うってのはね、最後の手段……最低の覚悟よ、アンタみたいに世間知らずの甘ちゃんじゃ無理、断言するわ」
【瑞奈】
「私はね、全部奪われて空っぽにされたわ……その時初めて気づいたの、私も奪って生きようって」
【メリル】
「なっ……何よ、私だって今までの人生皆あの子に奪われてたんだもん、ちょっとくらい……」
【瑞奈】
「繰り返そうか、貰い物の身体で喚くな」
【瑞奈】
「ねえ、根本的に違うのよアンタとは……恵まれた環境で泣き喚くガキとは違うの、おわかり?」
【メリル】
「ぐっ……そ、そこまで言うなら仕方ないわっ、奪う権利とやらも瑞奈から奪う、それでいいよね!」
【瑞奈】
「アンタにそんな台詞吐く権利はない、奪うってのはそんな生温い覚悟じゃないって教えてあげる――獄炎よ此処に集いて型を成せ!」
大気が震える。
沸き上がる炎が瑞奈を包み、その腕に、一本の矢を紡ぎ出す。
【メリル】
「本当に、やる気なんだ……」
伏し目がちな笑みを返しながら、メリルは溜息と共に背にした剣を抜き放つ。
瑞奈は、剣を構えた姿を確認すると同時に、メリルよりも大きな溜息を返し……。
【瑞奈】
「さっきの……返してもらうってのは間違いね、違った……訂正するわ」
【瑞奈】
「アンタが何を言っても、私はメリルと認めない……その身体、ううん、それだけじゃない」
【瑞奈】
「貴女の全てを奪い去る――覚悟なさいっ!」
静かに炎を振り上げた。
【アリシア】
「瑞奈っ!」
【瑞奈】
「何よ! また様子見とか……わっ!?」
振り向いた顔に投げつけられる紙切れ。
興を削がれたような目をアリシアに向けながら、その目線を紙へと下ろし……。
【瑞奈】
「これは……? 時空座標?」
【アリシア】
「暗記したら燃やしなさい――商業都市『ラ・ヴァローテ』の時空座標です、分かりますね?」
【瑞奈】
「は? わ、分かるも何も……それって、メリルの」
【アリシア】
「ええ、彼女の現住所です、こうなったら仕方がありません……時空跳躍で向かってください」
【瑞奈】
「は……え、な、なんでまたっ」
【アリシア】
「……銀十字ですよ、父親なら貴女より美味く彼女を諭す事でしょう、貴女にしかお願いできません」
【瑞奈】
「それは確かに……で、でも! メリルを放ってはいけないわよ」
【アリシア】
「ご心配無く……――私が居ますよ」
【瑞奈】
「は……アンタが、って」
アリシアは瑞奈の肩を叩くと、その前に立ち、メリルへと目線を投げかけた。
【メリル】
「……何よ、二人でナイショ話?」
【アリシア】
「ナイショ話です……瑞奈、頼みましたよ?」
【瑞奈】
「……分かった、任せたわ」
瑞奈はアリシアの後ろ姿と、メリルとを見比べると……振り切るように走り出す。
数歩、駆け抜けた後に大地を蹴り、そのまま、時空の狭間へ姿を消した。
【メリル】
「あれ……えっと、どういう事かな?」
【アリシア】
「選手交代です……私では役不足でしょうか?」
【メリル】
「あはは……先生かぁ、確かに強そうだけど……大丈夫かな?」
【アリシア】
「ん……そうですね」
【メリル】
「……っ!?」
一瞬――メリルは首を横へ逸らし、掠めて行った何かを凝視する。
背後に生い茂る木の幹に……根本まで突き刺さったメスを確認し、慌ててアリシアへ振り返る。
【アリシア】
「先ほどの言葉……本心にしろ虚勢にしろ、見過ごすわけにはいきません」
【アリシア】
「私も医者ですので、誰かを傷つけると公言されたら黙ってはいませんよ、メリル」
【メリル】
「……じょ、上等じゃないっ!」
+
-現世と幻世の狭間――『夢世』-
色も音も無い不可思議な界。
曖昧な境界が辛うじて天と地を分ける、そんな白。
何処までも広がる純白に、瑞奈という色が混ざり込む……。
【瑞奈】
「っと……ちょっと、居るー?」
沈黙を壊すように、一声。
返す言葉は無く、ただ、眩しすぎる白だけが目に映る。
【瑞奈】
「……って、居ないわけがないか、返事無いのもいつもの事だし……通るわよ、いいわね」
溜息を吐きながら、一声……そこに居るはずの存在に声をかけ、瑞奈は軽く頬を掻いた。
時空転移と言っても行使者によって種類が変わる。
一つ、主に超越存在による芸当で、瞬間的に移動する方法。
一つ、主に時空の揺らぎと呼ばれる代物に取り込まれた、自分意思ではないある種の事故。
そして……時空干渉能力を行使し、己が存在と目的地を宣言し、時の狭間を渡る術。
【瑞奈】
「えーと、片岡瑞奈、時空座標へ時空移動、『孤島』より……問題無いわね」
瑞奈は、いつも自分がそうしているよう、適当に目的地を呟くと、座標に指示された位置へと目を向けた。
あとはその場所に干渉し、穴を開けて通り抜ける……。
【??】
「……待って」
【瑞奈】
「うわっ……珍しいわね、久々に見た気がするわ」
肯定を反芻し、実行に至ろうとした瞬間……空間が揺れ、型を成す。
【??】
「…………」
現れた人影――少女は、無言のままに瑞奈を見上げた。
膝丈まで伸びた紅の髪、前髪は目を隠しそうな程に伸び、表情までは伺えない。
目を凝らして注視すれば辛うじて目元も覗けるが、そこに表情らしき物は無く、ただ、無表情。
【瑞奈】
「まさか何か引っかかったとか言わないよね、ちょっとした緊急事態なんだけどー……わっ」
瑞奈は放り投げられた物を手に取ると、不思議そうに少女へ目をやった。
少女は無表情のまま、最小限の動作で声を放つ。
【??】
「……それを」
【瑞奈】
「え? あ……木の、指輪? ……!?」
【瑞奈】
「これまさか、宿り木の……」
【??】
「…………」
【瑞奈】
「う、嘘でしょ……なんでこんなのっ、いいの!?」
【??】
「……どうせ、一度しか使えない」
【瑞奈】
「へ……ああ、なんだ……いや、それにしたってこんなの……っ」
【??】
「……帰りは、それを使って」
【瑞奈】
「え?」
【??】
「…………」
【??】
「……此処を、通らないで」
【瑞奈】
「え……あ、ええ、分かったわ……確かにコレ位の力があれば時空移動くらいすぐだけど、えー……」
【??】
「…………」
【瑞奈】
「……まあいいわ、ありがたく貰っとく……すぐまた戻るんだけど、その時はコレ使うから記憶は無しよ」
【??】
「…………」
【瑞奈】
「問題無いわね……もう行くわ、急いでんのよ」
【??】
「……まぁ、どうぞ」
瑞奈は少女に手を振ると、曖昧な大地を蹴り上げた。
浮いた身体をくるりと回し、時の裂け目へ身を躍らせる。
【??】
「…………」
【??】
「……まだ、会いたくないから……」
掻き消えた瑞奈に向けて、静かに呟く。
波紋のように広がる声はゆるりと消えて、再び、沈黙へと回帰した。
+次回予告+
【瑞奈】
「……この広い街から人間一人探せって……住所くらい聞けば良かったかも」
【アリシア】
「魔力、そして属性……共に私は希薄です、しかし」
【メリル】
「間合いがメチャクチャ……こんな戦い方っ、何処まで!?」
【瑞奈】
「はあ!? しばらく帰らないって……何してるのアイツ! もういい、教えなさいっ! 呼んでくるわ!」
【アリシア】
「調律師――万能なる薬師、二つ名は伊達ではありませんよ」
【メリル】
「くっ……いいわっ、そっちがその気なら私だって……っ!!」
【瑞奈】
「は、えっ? ……えっと、誰よアンタ」
第十五話
『調律師-そして、新たなる来訪者-』
【???】
「大丈夫です、メリルの事でしたら……私の方が、力になれますよ?」
16日目日記退避
(そのままコピペしただけザマス)
(後日過去ログと共に整形したのアップする予定だけど何時になるやら)
【瑞奈】
「……メリル、また負けてたもんね」
少女――片岡瑞奈は落ち着かない素振りで頭を掻くと、深く域を吐き出した。
昨日一日、何処か違和感を覚えたメリルの仕草。
思い返してみても……原因になりそうなのは『敗北』以外見つからない。
【瑞奈】
(露出狂……もとい、サバスってのに負けてから酷くなってるし、うん)
今日はそのサバスと再戦する予定だ。
正直、勝てる確証があるとも思えない……励ましの言葉の一つでも投げかけようと、そんな事を思いながらもう一息。
柄じゃない、情移りすぎ、そんな自責も頭の隅に浮かべながら、聞こえてきた足音に顔を上げた。
【瑞奈】
「おはようメリル、どうよ調子は」
【メリル】
「とっ……瑞奈かぁ、おはよー」
【瑞奈】
「ん、今日リベンジだって? 勝算はあるのかしらー?」
からかうような笑みを浮かべ、瑞奈はメリルを見下ろした。
後は反応に応じた言葉をかけるだけ、萎めば励まし、むくれれば笑いながら……背中でも叩いてやろう。
瑞奈は、そのどちらかの反応しか想定してはいなかった。
だから――
【メリル】
「ああ……大丈夫、私は負けないよ?」
――その、自信に満ちあふれた笑顔に、かける言葉が見つからなくて……。
第十三話
さよなら
-Angelic profile-
【瑞奈】
「アリシアー! ちょ、アリシアっ! 起きてるでしょ!?」
【アリシア】
「……起きては居ますが、騒々しいですね……どうしました?」
瑞奈は胸を押さえ、荒い呼吸を繰り返すとアリシアの肩に手をかける。
【瑞奈】
「どうもこうも! メリルがおかしい! 絶対おかしいーっ!!」
【アリシア】
「揺さぶらないでください、大丈夫、聞いてますよ」
【瑞奈】
「そんな冷静に返してる場合じゃないっ! 本当にメリルがおかしいんだってばー!」
【アリシア】
「はあ……分かりました、からっ!」
【瑞奈】
「あいたぁっ!?」
くるり、と瑞奈を投げ飛ばすと、アリシアは見せつけるように溜息を吐き出した。
崩れた衣服を整えながら、普段通りの無表情を瑞奈へ向ける。
【アリシア】
「……さて、おかしいとは具体的に?」
【瑞奈】
「と、当然のように投げてるんじゃないっ! 何よ今の!?」
【アリシア】
「かかる力と肉体の反応を読めばたやすい事です……それで、メリルがどうか?」
【瑞奈】
「そ、そうよ! メリルがおかしいの、なんていうかこう……ねぇ!?」
【アリシア】
「詳細を言わずに同意を求めるのは止めなさい……昨日と同じ、と解釈しても?」
【瑞奈】
「昨日の比じゃないわよ! あの子、あんな……なんて言えばいいんだろう、雰囲気も変だったし、その……」
【アリシア】
「……悪化したと判断します、成程……少し気になる所ではあります、メリルはまだ出てませんね?」
【瑞奈】
「え? ……ええ、多分朝飯でも食べてるんじゃないかしら」
【アリシア】
「わかりました、私もあの子と話してみます」
†
【アリシア】
「メリル」
【メリル】
「ん? ……あ、おはよう先生」
【アリシア】
「おはようございます、食事は済みましたか?」
【メリル】
「今終わったよー、ごちそうさまでした、っと」
【アリシア】
「そうですか……瑞奈、私達も食事にしましょう」
【瑞奈】
「え? ……いや、それはいいんだけど、用意してないんじゃ」
【アリシア】
「いえ、既に暖めてあります……失礼しますよ」
アリシアはメリルの横に腰を下ろすと、焚き火にかけられた飯盒を手に取った。
そのアリシアの行為に――それが成立する事に首を傾げながら、倣って瑞奈も腰を下ろす。
こんな『ミス』をアリシアがするはずが……いや、そもそも……。
【メリル】
「っと……じゃあ私はそろそろ行くよー、二人ともごゆっくりー」
【アリシア】
「メリル、その前に一つだけ……本日の勝算は如何ほどですか?」
【メリル】
「んぇ? さっき瑞奈にも聞かれたよー……勝てる勝てる、私は負けないよ」
【アリシア】
「そうですか、それは何よりです……が、残念ですね」
【メリル】
「ん?」
アリシアは用意の手を止めると、真っ直ぐにメリルを見据えた。
一瞬の沈黙を置き、小さく溜息を吐き出すと。
【アリシア】
「……杞憂であって欲しいと思っていましたが、メリル……いえ」
【アリシア】
「貴女は、メリルではありませんね」
【瑞奈】
「んなあっ!?」
何の迷いも無く、断定した。
【瑞奈】
「……せ、先生? 何言ってるのかなー?」
【アリシア】
「解説が必要ですか? まず、貴女が食事することを知った上で私達の食事も温めておきました……見たところ手をつけた形跡はありませんね」
【アリシア】
「メリルは『食事』に限ればそんな聞き分けの良い真似は致しません、味見……最悪、全て食べられている覚悟をしておりました」
【アリシア】
「次に、態度の差異……違和感ですね、昨日の時点では消沈してるだけとも取れたので様子を見ましたが、前述したそれと合わせると見過ごせません」
【アリシア】
「最後に……私は今この瞬間まで、メリルが『私』と名乗るのを聞いた覚えが無かった」
【アリシア】
「以上、全ての要素を、私が『危惧していた事柄』と重ね合わせれば明白です」
メリル、そして瑞奈の視線を浴びながら、淡々とアリシアは言葉を紡ぐ。
パチっと焚き火が音を立て、沈黙を彩る。
一拍の間。
静けさが緊張を纏う頃……メリルは歪んだ笑みを二人に向けた。
【メリル】
「――ま、バレちゃう気はしてたな、隠す気も無いしー……最後のだけは納得できないけど」
【メリル】
「私が私って名乗ることに、何か問題でもあるのかな?」
【瑞奈】
「め、メリル……」
【アリシア】
「問題とは一言も、要素として挙げたに過ぎません」
【瑞奈】
「え、あっ……ちょっ、あ、アリシア! 私には何がなにやら……」
【アリシア】
「彼女はメリルであってメリルではない、そういう事ですよ」
【メリル】
「違う違う、私はメリルよ? ……ううん、私がメリルなのよ」
【アリシア】
「まあ、二人ともメリルだというのは否定できませんが、少なくとも私達の知ってるメリルとは別人ですね」
【メリル】
「そういう事かな……やっぱり違うものね、当然だけど」
メリルは溜息混じりに苦笑を浮かべ、目を閉じると……もう一つ、溜息を吐き出した。
光が身体を包み込み、収縮し、霧散する。
眩しさが収まる頃には……藍の髪色が、黄金色へと変わっていて……。
【メリル】
「改めて、はじめましてって言っておこうかな?」
開けられた両目も、同色の輝きを見せていた。
【瑞奈】
「アンタ……ど、どういう事!? メリルはどうしたのよっ!」
【メリル】
「だから私がメリルだって」
【瑞奈】
「そうじゃないわよっ! 元のメリルはどうしたって聞いてるの!」
【メリル】
「嗚呼……今までの私と一緒、私の中で眠ってるはずよ、肉体的感覚は無いからあの子にとっては天国じゃないかしら」
【メリル】
「お腹も空かないし……ああ、私はあんまり食べないからあの子程気を使わなくていいからねって、コレはクリスに言うべきかしら」
【瑞奈】
「……やっぱり、アンタはメリルじゃないわ、他の誰が認めたって私は絶対認めない! メリルに戻しなさいっ、今すぐに!」
【メリル】
「んぇー、なんだか悪者扱いねー……そんなんじゃないよ、これはあの子も納得してるんだから」
【メリル】
「次負けたら私が出るって言っといたの、それだけの事なのになー」
【瑞奈】
「っ……それで、サバスに負けた時からずっと……っ!!」
昨日の様子が、瑞奈の脳裏に浮かんで消える。
あの消沈が全て自分が消える事に対する反応なら……自分の存在が奪われる事への諦めなら。
【瑞奈】
「ぐっ……私が一番、気づいてあげるべきだったのに……っ」
【メリル】
「なんか誤解してるみたいだけど、アレは私のせいじゃないわ……ただ、あの子が申し訳ないって思ってただけ」
【メリル】
「現状はアレの意思でもあるんだから、あまり私を邪険にしないよーに……と、じゃ、そろそろ行くねー……とりあえずサバス倒さないと」
【メリル】
「あの子が勝てなかったのを私が斬るって考えると、ちょっと楽しみだなー」
【瑞奈】
「メリルの意思って……そんなの、信じられるわけないじゃない!」
【メリル】
「意外と頑固なんだね、瑞奈って……ああそうそう、あの子から二人に伝言だよ」
メリルは二人それぞれに笑みを向けると――。
【メリル】
「ありがとう、さよなら――だってさ」
元のメリルに限りなく近い笑みを浮かべ、そう、呟いた。
【瑞奈】
「――っ!!」
【メリル】
「それじゃ、ちょっと行ってくるねー……待ってて、すぐはっ倒して帰ってくるからさ」
メリルは二人それぞれに笑みを向けると、振り向き、森の奥へと歩き出した。
【瑞奈】
「っ……ま、待ちなさいっ!!」
その声には答えず、メリルが立ち去った後には風の音だけが辺りに響いた。
不躾な静寂を感じながら、瑞奈は再び、アリシアの肩に掴みかかる。
【瑞奈】
「……どういう事よ、なんで……アリシアっ!」
【アリシア】
「血、ですね……やはり、あの血脈は銀十字をもってしても消せぬ程濃い物だったようです」
【瑞奈】
「それって……アンタ、なんか知ってんの!?」
【アリシア】
「……怖れては居ましたが、まさかこんなに早く事が起こるとは、予想外でした」
アリシアは瑞奈から目を逸らし、天井を見上げ目を細めた。
【アリシア】
「瑞奈、あの子の言葉の通りなら現状はメリルの意思です
……最悪の場合、このまま戻らないかもしれません」
【瑞奈】
「んなっ!? ……じょ、冗談じゃないわそんなのっ、わ、私は認めない、認めないっ!」
【アリシア】
「落ち着いて聞いてください、ただ、彼女を否定するだけでは始まらないのは確かです」
【瑞奈】
「……私、アイツとは多分相性悪いわ」
【アリシア】
「よく分かります……それでも、彼女に言葉を投げかけるのは大切です」
【アリシア】
「私と貴女と――いえ、誰でも良いのです、声をかければかける程、彼女は何らかの道を見つける事でしょう、後は――メリル次第です」
風が吹いた。
揺れる髪を遊ばせながら、アリシアは瑞奈を見据え手を握る。
【アリシア】
「覚悟を決めてください……容易な事ではありませんよ」
言い聞かせるように……瑞奈と、自身に向けて呟くと、深く、深く溜息を吐き出した。
風は、遺跡内の森を踊るように撫で、気紛れに何処かへと吹いていく……。
プロフィール
PLじゃなくてクマヘッドってキャラがブログ書いてると思ってくれよ、なあ諸君。
・ゼウ子
クマヘワールドの切り札幼女。
無口で大人しくて無知でクール、色んな意味でツッコミを入れざるを得ない。
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